J. デュドネ, "数学史 1700-1900" /Jean Dieudonné, "History of Mathematics 1700-1900"
1985 | ISBN: 4000055038 | 日本語 | PDF | 1088 pages | 52 MB
1985 | ISBN: 4000055038 | 日本語 | PDF | 1088 pages | 52 MB
この300年間の精密で精緻な数学史である。三巻本で約1000ページはある。いま発刊されている数学史は色々と多彩で、ギリシア時代からアラビア科学、中世ルネッサンスにかけての三次、四次方程式などから、カルダーノからタルターリアまで。然しこのデュドネの数学史は、今まで読んだ、どの数学史本とも異なる著作だ。扱う時代は18世紀から20世紀の始めまで、しかも内容たるや論理構造を重視し、精密で内容の系譜と進化を特徴としている。これは実に優れた内容であり、記述的にも冗長な余分な雑事は省かれて居る。ブルバキは20世紀初期にフランスの若手数学者が形成した集団の名称であり、3巻本の編集責任者はブルバキの創始者の一人であるJ・デュドネです。だがブルバキの追求する哲学は、余りに論理構造を重視するあまり、元々数学を培ってきた物理との関連などを、余分なものとして捨て去っている。是ではあまりに数学の論理的整合性を追求するあまり、応用数学の持つ世界の豊かさを捨てている。ブルバキの隆盛は数学の枯渇に終わる事の無いようにしたいものだ。
この数学史で取り上げる対象期間は200年に過ぎないにも関わらず、この200年間は、現代数学の揺籃の時代であり、現在の数学の種子はすべて、この期間の産物である。これを詳細に漏れなく読み取れば、現代数学の歴史的輪郭を把握することに成るだろうと云う予感がある。残念なのは、20世紀の数学が描かれて居ない事だが、考えて見れは現在進行形の数学を、客観的に記述する事はおそらく無理であろう。そしてこの20世紀の数学は、異常な程に大大的に進歩している。20世紀の数学全体を記述する事は、とても一巻本では出来ないだろう。それはこの3巻本にも匹敵する巻数が必要だろうから、元々この企画では無理である。新たな計画で20世紀の数学史を企画する以外に無いだろう。
大変に優れた数学史であるが、残念ながらメソポタミアとギリシアの数学部が欠けている上に中世の遅滞した歴史も書いて居ない。確かに現代数学は十六世紀から始まれば、主要な内容には困る事は無いのだが、それでも数学史と名付く以上は、東洋数学も載せるべきである。おまけに1900年までの歴史しか書いて居ない。現代数学の抽象化は20世紀に始まるのだから、この20世紀を書かずして何の数学史か、と云う不満は述べてもいいだろう。確かに20世紀の数学を詳細に書くのは難しかろうが、出来れば不完全な状態でもアウトラインは描いてほしかった。21世紀の数学は益々抽象化と非線形性を昂進させるだろう。然しこれが醍醐味なのだから、不満が有ってもドンドン書くべきなのだ。数学者はもっと新たな分野の開拓に野心的であるべきだ。
Abrégé d’histoire des mathématiques : 1700-1900